2023年5月14日(日)ゲームマーケット2023春(於:東京ビッグサイト西展示棟1,2ホール)にて、アナログゲームミュージアム設立記念イベントを行いました。
これまで我々は神奈川県中郡大磯町の本館でアナログゲーム資料の受け入れ作業など、ミュージアム設立のための活動を行ってきました。今回は正式に会員を募集する「キックオフ」のイベントです。ミュージアム設立の大きなマイルストーンとなる日のため、たくさんの準備と議論を重ねてきました。
期待と緊張の高まる当日でしたが、準備した40席すべてが開催時間前に埋まり、立ち見も大勢出る大盛況となりました。(来場者数80名以上)
イベント中に多くの質問も寄せられましたが、「通りがかって活動を知った、応援している」といった、開催時間外にも応援の声を寄せてくださる方がいらっしゃいました。活動を広く知ってもらう意味でも成果のあるイベントでした。
イベントに登壇してくださったゲストの方々、イベントに来てくださった方、会員になってくださった方、みなさまありがとうございました。
イベントの内容は本記事最後に要約します。ご興味をお持ちになった方は、youtubeチャンネルに掲載されているアーカイブ動画をご視聴ください。
会員として活動を応援してくださる方は、下記入会案内ページより支援をお願い致します。
【会場】:ゲームマーケット2023春(東京ビッグサイト 西展示棟1,2ホール)
【日時】:5/14(日)14:00 – 16:00
【イベント内容の記録】
イベント司会:AGM理事・井上奈智
第一部 『アナログゲームミュージアム設立宣言』 AGM代表理事・草場純
自己紹介
- 第一回ゲームマーケット秘話
- 本日は歴史的瞬間となるはずです
なぜアナログゲームミュージアムを作るのか?
- アナログゲームの楽しさ、良さを伝える(遊び本来の楽しさ、戦略分析、インスト(ルール説明)の楽しさ、収集する楽しさ、語り合う楽しさ、創作の楽しさ、ゲーム大会で対戦する楽しさ、老若男女が参加できる良さ)
- アナログゲームの文化価値を広める、認識してもらう
- ゲーム文化には多様性がある(ドイツ人とスカートを楽しむ、イタリア人とスコポーネを楽しむなど世界中の人と繋がるきっかけとなる)
- 遊ぶと捨てられてしまうものを、残していく(記録、分類、整理していくうちに新たな価値が生まれる)
- 貴重なコレクションの受け皿になる(コレクターが亡くなると貴重なものが散逸する問題、貴重なコレクションは家族にとってゴミである)
アナログゲームミュージアムとはどういうところなのか?
- ゲームのミュージアムはゲームを「遊びにいくこと」が大事
-
ゲームの博物館であり、美術館であり、図書館であるがどれとも違う
- 理想は、研究所であり集会場であり、全国大会で集まる地方のプレイヤーの宿泊場
アナログゲームミュージアムは何をするのか?
- 文化の蓄積(収集、保存、整理、分類、目録の作成)
- ゲームの利用、公開、貸出、資料の出版、年鑑(アニュアルレポート)の作成
- 遊戯史研究(遊びの切り口から歴史を読み解く、数学的解析、美術的解析(コンポーネント)、心理学的解析(ポーカー)、社会学的解析、ゲーム論)
- 民族/郷土ゲームの研究会開催(将棋系ゲームの系譜等の文化的状況を俯瞰する研究)
- 業界横断を調整する、中立な機構(プレイヤー組織、ゲームデザイナー、ゲーム出版社の横のつながりを支援する)
- ゲーム大会の企画(テーマ別、ゲーム研究の学会、ゲームの国際大会)
アナログゲームミュージアムの現状
- 神奈川県大磯町で資料館を運用(2000を超える収蔵品がある)
- 資料館が民家のため一般公開が難しい、アクセスに課題あり
設立宣言「これをもちまして、アナログゲームミュージアムの設立を宣言いたします」
- 上記で語った夢の実現に協力して欲しい、参加型協力ゲームを一緒にプレイしましょう=会員になってください
司会よりフォローアップ:
- 2021年2月に最初の打ち合わせ、2021年9月一般社団法人設立、約2年の準備期間を経て本日の設立宣言を行なった
第二部 『アナログゲームミュージアムの活動と展望』 AGMカタロギングWG
「図書館におけるボードゲーム利用の実態とAGMの役割」高倉暁大(日本図書館協会認定司書)
自己紹介
- 学校図書館でのボードゲーム企画やイベントを行なっている
- ゲーム好きの司書
図書館におけるアナログゲーム利用の現状と課題
- 図書館がアナログゲームを扱うようになった(100館を超える図書館が、アナログゲームのイベント・企画を行なっている)
- 目的に合わせてゲームを選びたいが、選ぶための情報が少ない(プレイ時間、人数、対象年齢など)
- データベースがあれば図書館がアナログゲームを適切に選びやすくなる
- 資料として保存する場合には目録が必要(本にとっての著者名などの情報をどういれたらよいのか)
アナログゲームミュージアムの役割
- 図書館が資料としてアナログゲームを保存する際の参考目録データの作成
- アナログゲームデータベース、システムの作成
データベース作成の利点(図書館からの視点で)
- 図書館同士の相互貸借に対応できる(50年後の子供が、カタンを遊べる)
- 卒論などの研究資料として、学生へアナログゲームを提供しやすくなる(発行年、発行元の異なるゲームの比較が可能)
「アナログゲームの目録作成と今後の展望」伊藤稔(元図書館員、ゲーム制作者)
自己紹介
- 元図書館員、プレイヤー、ゲーム制作者として3つの視点を持っている
目録を作成すると何の役に立つ?
(ゲーム制作者として)
- 構想中のゲームが他の作品と似ていないか調べられる
- 登録数がわかれば、流行りの傾向がわかる
- メカニクス、テーマが分類されれば、さらに詳細に流行りの傾向が分析できる
(元図書館員として)
- 所属するためには目録データが必要(タイトル、デザイナー名など、ゲーム特有の項目があるはず)
(プレイヤーとして)
- 知らないゲームを探すことができる(見るだけでも楽しいはず)
- 統一されたデータ項目で、ゲームを調べられる
- リコメンドサービスなど新しいサービスが生まれる可能性
ゲーム制作者に向けたおねがい:奥付けに情報をきちんと入れて欲しい
- ゲームのアーカイブは奥付けの情報をもとに行うため、誤った情報で登録されるのを避けられる
- 奥付けに必要な情報:
- ゲームの正式なタイトル
- 制作者(ゲームデザイン、イラストなど)
- 発行年月日
- 頒布者(サークル名など)
「アナログゲーム目録AGMサーチの概要」福田一史(大阪国際工科専門職大学講師)
自己紹介
- 専門はゲーム研究、ゲームアーカイブ、メタデータ
アナログゲーム目録の必要性
- オンラインコミュニティ型データベースは存在する
- 現行サービスではアーカイブ機関特有の目的に適合していない
- 資料の管理方法、資料への実際のアクセスの提供が必要
アナログゲームミュージアムのデータベース「AGMサーチ」が目指すところ
- 現行サービス(Board Game Geek, ボドゲーマ)があまりカバーしない、国内のインディーズ作品中心
- ゲームタイトル単位だけでなく、ゲームのバージョン、作品パッケージを含む詳細なレベルの記録を目指す
- 現行サービスとも連携して相互補完する
「AGMサーチ」の現状
- 現在公開/開発中(http://id.analoggamemuseum.org/s/agm/page/welcome)
- Omeka Sという文化遺産アーカイブなどに使われるオープンソースプラットフォームを利用
- 現在公開されているのは限られた情報のみ(タイトル、ID、サムネイル画像)ーマンパワー不足
- 今後はユーザの検索ニーズ(メカニクス、対象年齢などの詳細なメタデータ)に適合させたい
- 2022年にLODチャレンジで「カルチャーLOD賞」受賞 *LODチャレンジは、LOD(Linked Open Data)の技術普及の促進を目指したオープンデータのコンテスト
- AGMサーチのバックボーンとなるデータモデル構築について、論文をpublish済(福田一史, 井上奈智, 高倉暁大, 高橋志行, 橋崎俊, 日向良和, 藤倉恵一, and 松岡梨沙. 2020. “テーブルトップゲームを記述するための概念モデルの開発.” じんもんこん2020: 人文科学とコンピュータシンポジウム論文集 2020: 275‒282)
- ダンプデータ・オントロジー・SPARQLエンドポイント(Dydra)のアクセス情報は、オープンデータとしてgithubにて公開(https://github.com/fukudakz/agmsearch)
- 目録データの全体像を把握/可視化できるダッシュボードを公開中(http://id.analoggamemuseum.org/s/agm/page/dashboard)
*ゲームの登録総数、発行年ごとの数、発行元の国ごとの数、などが動的/タイムリーに見られます - オンラインのアナログゲーム展示も試験的に公開中(2件のみ)
AGMサーチの課題
- データベースの拡充、データベース利活用の事例拡充
- 上記課題を達成するための体制作り(マンパワーと資金不足)
第二部 会場から質疑応答
既存のアーカイブ施設(図書館など)に所蔵されている資料の位置付けは?
福田:アーカイブの範囲が現時点では限定されている(ゲームマーケットのサンプル、一部コレクターの寄贈品)ため、できていない。広い範囲の資料を今後どうアーカイブに入れていくかは、今後議論していきたい。
草場:シナリオゲームなども今後の収集対象として考えている。
現物がないゲームの取り扱いは?(現物が手に入らなくなったもの、デジタルデータなど)
福田:現時点ではそこまでフォローできていない。これまで捨てられてきたものを保管していく(捨てられてしまうフローを止める)のが、我々の今やっていることでありミッション。もちろん現物がないもの(データ)をキープしていくのも我々の役割。
伊藤:目録作成の性質として、現物主義になってしまう。現状では手元にあるものを保存、収集していくのがメイン。
データしか残っていないゲーム(じゃんけん、ゆびあそび)も残していくのか?
草場:本来のゲームの姿は、形がないこともある。専門にしている伝統ゲームという観点からも非常に重要なこと。まず一次の対象としてはアナログゲーム、カードゲーム、ダイスゲーム。その上で、形のないゲームは動画に撮って保存する方法もある。遠い将来は、形のないものも含め全て保存していきたいと思っている。
福田:非常に重要な問題。「もの」か「こと」かによってアーカイブのしやすさは変わってくる。「こと(形のないもの)」は客観的に記録するのが非常に難しい。ルール、映像は記録できるが、記録のスキームを考えないといけない。遊びとは何なのかといった本質論やゲーム論とセットで(「こと」をどうアーカイブするかについて)もう少し詰めていきたい。
長期的展望としてアクセスの良い場所に箱物の整備を、と話していたがどの程度の資金をめどにして計画しているのか?
草場:具体的にはまだ想定していないが、公的補助を求めていく必要がある。そのためには、(アナログゲームが)文化として価値が高いということを共通認識として広める必要がある。具体的なタイムラインはまだないのでこれから考えていく。
一つの良い事例として、新宿区にあるおもちゃ美術館が良い運営をしている。立ち上げの際に館長へ取材に行き、知見をもらった。新宿区とうまく連携して、小学校の廃校を利用している。現在日本全国で廃校があるので、うまくむすびつけができるとよい。ただし、具体的な伝手はないので情報を求めている段階。
第三部 パネルディスカッション『アナログゲームミュージアムに期待するもの』
登壇者
- 渡辺範明(ドロッセルマイヤーズ)【第三部司会】
- カナイセイジ(カナイ製作所)
- 刈谷圭司(ゲームマーケット前事務局長)
- 草場純(アナログゲームミュージアム代表理事)
- 安田均(グループSNE)
- 米光一成(ゲームデザイナー)
AGMに望むことについて一言ずつ
カナイ:アーカイブと聞くと、SFアニメでよくあるマイクロメモリチップの中に人類の叡智が詰め込まれて「これさえあればなんでも再生できる」といったものを期待してしまう。これさえあれば〇〇年のゲームが全て再生できる、みたいなことができるとよい。
刈谷:保存時のカビのこととかが気になってしまうが、ChatGPTなどテクノロジーを利用してアーカイブをうまく進めてくれたら。
安田:自分もゲームを集めているが、この先そんなに長くないのにそれらをどうするのかという問題がある。ゲーム雑誌のコレクションをかなり持っているので、ぜひ所蔵して欲しい。
米光:メディア芸術アーカイブの審査員をやっているが、アーカイブの困難さはいつも話題に上がる。一つのアイデアとして、一箇所でやるのではなくいろんなところでやるのがよい。漫画のケースでは、漫画家の郷土で記念館として所蔵したりしている。各地にあるという状態になるといいなと期待する。
渡辺:各所にあるというのはいい。ジャンルごと、収集物ごとに各地に存在し、統括をアナログゲームミュージアムでやっていると良い。取り寄せもミュージアム同士でやるというのはどうか。
分散型ミュージアム
草場:みんながそれぞれ得意なことをやって、ネットワークを作るような分散型はとてもいいアイデア。自分がいなくても、みんながそれぞれサポートし合って、一つのものを構築するのが柔軟で応用が効いている。
刈谷:それで思い出したのは海洋堂ミュージアム。かなりの田舎だが、キャッチフレーズが「わざわざ行こう」。地方にあるのはいい。箱を用意するのは大変だが、廃校を利用するならできそう。
安田:おもちゃの博物館はいろんなところにあるのに、ゲームはない。第一号は大磯で、いろんな場所にあるのがいい。メーカーが大きくなったら、メーカーが作るのも良い。(ドイツの事例)
カナイ:自分が作るならラブレター博物館になる。
渡辺:枚数が少ないカードゲームを全部所蔵してはどうか。
海外には公共のアナログゲームミュージアムがあるのか?
安田:公共のアナログゲームミュージアムは、ドイツにはいくつかあると思う。企業の経営だが、ドイツにラベンスバーガー社のゲーム博物館がある。郊外にはゲームに関連したテーマパークまである。
Ravesburger museum: https://www.museum-ravensburger.de/de/start/index.html
草場:諸外国にはヨーロッパを中心にけっこうある。アメリカだとUS Playing Card Campanyとか。ただしそこの企業の製品に偏ってしまう欠点がある。そう言った意味では、我々のように中立な立場で作るのは大事。
データの正確性
安田:正確なデータというのは本当に欲しい。特にゲームは出版年月日が曖昧で、いつ出版されたのかの情報が具体的にわからないことが多い。ゲームのレビューをしたい人が、元の(信頼できる基本)データがあったらもっとやりやすいし、ゲームの流れもわかる。
ゲームマーケットのサンプルアーカイブ
草場:現在はアークライト社と契約を結び、ゲームマーケットのサンプル作品をアナログゲームミュージアムが保管している。
渡辺:それを知らないゲームデザイナーは多いかもしれない。もっと周知徹底されるといいですね。
安田:メーカーからのゲーム提供はないのか?
刈谷:事務局から積極的に企業へサンプル提供を呼びかけることはしていなかった。今後できるように呼びかける。
草場:メーカーの力はとても大きい、なので賛助会員として協力してもらいたい。
会員のメリットは?(資金面と公共性の両立)
草場:将来的には、図書館の本の貸し出しのように(会員へ)ゲームを提供できるようにしたい。ただしゲームは本と違って、コマがなくなったりカードが一枚でも破損すると遊べなくなってしまう。3Dプリンタで複製して貸し出しても良い(著作権の問題あり)が、簡単ではない。
米光:そもそもアーカイブされること自体がメリット。たとえばあるゲームのレビュー記事を執筆する際に、そのゲームの原案となったゲームがあることを知ったが、それにアクセスできない。そういうゲームをミュージアムで実際に見て原稿を書けると、正確な記事を書けて良い。もっといろんな人がゲームレビューを書いた方が、ゲーム文化の広がりに役立つ。そのためにもアーカイブされていることはすごい大切。
安田:データベースは客観的であってほしい。レーティングがあると問題になるかもしれない。
草場:正しい基礎データの提供は使命だと思っている。
米光:アナログゲーム文化はまだ地位が高くないが、歴史研究している人がいれば地位も上がっていくのでは。その一端を担うことが会員のメリットになる。
刈谷:具体的な見返りがなく何十年も会費を払う人がいるのだろうか?
渡辺:日本はインディゲームデザイナーの数はとても多い。それらの人々は、データベースを利用したいというモチベーションが高いはずなので、会員になってもらいたい。
安田:こうしたイベントをゲームマーケットで続けていくことは効果がありそう。
最後に一言ずつ
カナイ:ゲームアーカイブのデジタル化が今後必要。現物だけでなく、デジタデータを提供してもらえれば遠隔地でも閲覧しやすいし、紛失のリスクも解決する。仮想空間でゲームを遊ぶツールが存在しているので、デジタル上でゲームを提供するのは会員のメリットにできるかもしれない。
刈谷:可能な方は市長か村長になって、ミュージアムを誘致してください。
安田:ドイツのイベントでボードゲーム年鑑をもらったことがある。それがよかったので、年鑑を作って欲しい。
米光:アーカイブ事業自体が困難でいろんな課題があるが、アナログゲームはコンピューターゲーム、メディア芸術に比べるとアーカイブしやすいので、今日がきっかけになってプロジェクトが前に進んで欲しい。
渡辺:公共のものなので、みんなで作っていこうというのが大事。それぞれの関わり方で、スキルを持った人が分業していくと困難なことも実現していけると思う。
草場:今日は登壇者のみなさんから有益な示唆をいただいた。ありがとうございました。
文責:触覚かるた(Shokkaku)